先月、子どもの栄養と食育に関するセミナーに参加してきました。実際に幼稚園や学校給食の献立開発や調理に携わっている人、またベテランの栄養コンサルタント達に囲まれ、とても刺激的な、学ぶことの多い3日間でした。
今更ながらへぇ~と思うこともたくさんあったので、ここで少しずつシェアしたいと思います。
まず今回は、幼稚園(保育園も含む)の給食について。
ドイツで生まれ育ったわけではない私たち。子どもが生まれ、ただでさえ新しく体験することばかりの中、ことに子どもの食や栄養に関しては悩むことが本当に多いです。日本で自分たちが経験してきたこと、現在日本(主にインターネット)から得られる情報、そしてドイツでの現実。その間でみなさん、少なからず葛藤しています。そして子どもが保育園や幼稚園に行き始めると、そこにまた、新たな「未知との遭遇」が待っていることになります。
ドイツの幼稚園、私たちが知っている日本のものとは少し(場合によっては大いに)様子が違います。一日の過ごし方や遊び方について、その違いを語り始めると長くなってしまうのでここでは特に話題にしませんが、違うと感じる点の一つが、給食です。
日本では(最近になって、不穏なニュースを聞くことも残念ながらありますが)、給食と言えば、栄養のことが最大限に考えられていて、メニューも多彩。最近では和食給食が推奨されていたりもしますね。子どもの成長はもとより、教育の一環としても、しっかりと考えられている、という印象があります。
ドイツではどうでしょうか。
献立は、私立の施設だと専任の栄養士さんが作成していて、自前のキッチンで調理を行うところもありますし、献立の作成、調理ともに業者に委託していて、各幼稚園が、その予算や方針に合うメニューを選択して配送させるところなどがあります。私が過去に見学した幼稚園の中には、幼稚園の目の前にあるイタリアンレストランが、毎日子どもたちの給食を作って運んでくれる、というところもありました。
今は、オーガニック食材や地域の食材を使う施設や業者も増え、より安全、安心な食事を、という傾向は、日独同じです。
ただ、実際に給食の献立票を見たり、幼稚園に通っている子どもたちの話を聞いて、「日本とは随分違うな~」と思っている方も多いように思います。不思議に思う点として挙げられるのは、
トマトソーススパゲティの登場頻度が高い。
メニューのバリエーションが少なく、しょっちゅう同じものを食べている。
使われている食材が少ない。
ピザなど、ジャンクフードのカテゴリーに入るものが献立にある。
ナドナド。
自分が知っている日本の様子との違いに、戸惑うことも少なくないと思います。でも、心配をする必要はありません。確かに物足りなく見えますが、実は栄養については、キチンと考えられているんです。
子どもの食は大切、という考え方は日独まったく同じです。食育も重要視されています。ここドイツは他民族が共存する国。様々な国・地域からの移民も多く、当然食習慣や健康についての意識もいろいろです。その上貧困層も存在し、その層を中心に、子どもの肥満が大きな問題になっています。子どもの食と栄養は、ドイツでは日本よりもっと深刻な問題であるのです。
そんな状況が、給食のメニューにも反映されているはずなのです。しかし、そう見えないのはなぜでしょう。考えてみました。ドイツでは、調理をした温かい食事を取るのは、伝統的にはお昼だけ。そうなると、3食温かい食事を摂る日本ほど、その内容がバラエティーに富んでいないのは、当然と言えば当然です。それに、山のものも、海のものもある日本に比べて、そもそも給食に使える食材自体が少ない印象があります。
それに献立も、子どもたちに馴染みのある、つまり食べてくれるメニューになっていることが多いのだと思います。ドイツでは廃棄する残飯の多さが大きな問題になっており、できるだけ食べ残しを減らそうとしている結果が、私たちが思う「メニューのバリエーションの少なさ」に影響しているのかもしれません。
食事から摂るべき栄養素とその量の目安は、ドイツでは一番有名な栄養啓蒙機関であるDeutsche Gesellschaft für Ernährung(DGE)の推奨値を採用しているところが多いと思います。そして、それをどのように食事に反映するかについては、ドイツに住む人々の健康促進に携わる様々な機関が、独自のコンセプトを作り、提案しています。
そのようなコンセプトのうち、有名なのがOptimierte Mischkost (直訳すると「バランスのとれた、最適な食事」)、通称OptimiX(オプティミックス)です。これは、子どもの栄養についての研究機関、Forschungsinstitut für Kinderernährung (FKE)が提案しています。
OptimiXでは、子どもが一日に必要としている栄養素とその量に加え、食習慣や子どもの嗜好なども考慮して、一日5回の食事(3回の食事と2回の間食)×4週間分の献立プランを作ります。みなさんの周りにある保育園や幼稚園の中には、このコンセプトを取り入れているところも多いと思います。
このOptimiXについて、興味深いと思った点がいくつかあります。
まず、上に書いたように、「子どもの嗜好なども考慮」している点。献立例をよく見てみると、子どもが喜んで食べるもの、つまりジャンクなものや甘いものも取り入れられています。例えばデザートにケーキ、おやつにポテトチップスなど。献立を過度に「理想的」にせず、子どもが食べることに興味を持てるよう、より「現実的」にしているわけです。
これら甘いものやポテトチップスなどは、OptimiXの献立プランでは、一日に摂ってもいい嗜好食品(砂糖や油分の多い、控えめにしておいた方がいいもの)の量の一部として出されています。もし、お子さんが幼稚園からお家に帰ってきて、さらに甘いおやつを好きなだけ食べてしまうと、それで一日に摂取してもいい嗜好食品の推奨量を大きくオーバーしてしまうことになります。お子さんが、「今日はケーキを食べたよ」「デザートにアイスが出たよ」などとお話ししてくれたら、お家では甘いものやお菓子はそれ以上食べないのが理想です。
また、これら献立プランを作成する際、子どもの年齢の他に「身体活動レベル」(PAL値)も考慮されています。PAL値とは、日常生活の中での身体活動の強さを数値化したもの。例えば「座って過ごすことが多い」場合は「低い」レベル(PAL値1.40-1.60)、職場などで移動が多かったり、軽いスポーツをする場合は「ふつう」のレベル(PAL値1.60-1.90)、立ち仕事に従事している、あるいは運動習慣が活発な場合は「高い」レベル(PAL値1.90-2.20)という具合で、身体活動レベルが高いほど、食事から摂るべきエネルギーが多くなります。
驚いたのは、FKEが提案している子ども向けの献立プランでは、PAL値1.40、つまり最低(最も動きの少ない)の身体活動レベルを採用しているということです。実際の子どもたちの様子を見ていると、朝から晩まで動き回っているのに、なぜ?と思います。これは、子どもたちの活動量が、全般的に見ると減っていることを考慮しているそうです。多くの子どもたちが、外遊びや運動をあまりしなくなった。背景にあるのは、こういう現実のようです。
長くなってしまいました。私がここでみなさんに言いたかったのは、ドイツでのお子さんの幼稚園での食事について、私たちが体験してきたものとは違いますが、「心配することはないですよ」ということです。
みなさん、お子さんのドイツでの保育園、幼稚園の給食について、不安なこと、困ったこと、また、自慢できること(←これ、すごく興味アリ)があればコメント下さい。みんなでシェアして、考えてみたいと思います。
写真は、娘の幼稚園のいつかの昼食。白身魚のソテーにディルとマスタードのソース、付け合せのライス、ビーツのサラダ。午前のおやつ(間食)は野菜(スティック野菜にクリームチーズなどをつけて食べる)、午後のおやつは「サプライズ」になっています。「サプライズ」、何だったんだろう。
「サプライズ」で思い出した!息子が幼稚園に通っていた時、この幼稚園(娘とは別の幼稚園)の献立票には「サプライズ」ではなく、「いろいろ」と書かれていました。「いろいろ」って何?って聞いてみたところ、実際は「サプライズ」と同じなのだけれど、「サプライズ」って書くとみんなすごく期待して、出てきたものにがっかりして食べないから、あえて「サプライズ」という表現を避けている、と返事がありました。現実的というか、何と言うか・・・。ちょっと複雑な気分になったのを覚えています。
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