ドイツの冬は長くて暗い。そして寒い。私は雪がそれ程降らない地域に住んでいますが、雪がたくさん降るところももちろん多くあります。
そんな季節がやっと去り、おひさまが出始めると、冬中どよーんとしていた気分も上向いて、外に出たくなります。
私がドイツに来た当初不思議に思っていたことのの一つに、次のようなものがあります。
長い冬が去って久しぶりにおひさまが顔を出す時・・・まだ寒い2月から3月、こちらの人は「待ってました!」とばかりに一斉に外に繰り出します。散歩はもとより、カフェのテラス席でお茶を楽しむ人、はたまた公園に寝転ぶ人。まさかの半そで姿の人も。「まだ寒いのに、なんで・・・」と思ったものです。
ドイツに住んで10年以上が経ち、今になってやっと、その意味がわかったような気がします。それは、長い冬の間おひさまの光を得られないこちらの人の場合、本能的にその体がおひさまの光を欲するのではないか、ということです。喉が渇いて、ずっと水を飲みたかった。やっと水分を口にすると、それが体に染み渡るのがわかります。おひさまの光も同じように、前年の秋までに体に貯めていた分が底をつき、やっと浴びることのできた光を体に行きわたらせる。そんなイメージです。
そして最近のこと。今週この辺りは日中最高気温25度くらいの夏日3日程ありました。おひさまの強い光を浴びながら、改めておひさまの光と体の関係について考えてみました。
まずはみなさんご存知のことから。肌の色は、肌にあるメラニン色素が作り出します。私たち日本人の肌は、一般的に有色(黄色)です。そしてドイツ人の肌は、一般的に白色です。つまり、私たちの肌にはメラニンが比較的多く、ドイツ人の肌には少ないということです。
メラニンの大切な役割は、太陽から注ぐ紫外線を肌の表面で吸収し、皮膚の深いところへ侵入するのを防ぐことです。皮膚の加齢現象や皮膚がんなど、紫外線の害についてはよく知られています。
しかしこの紫外線、実は体にとって必要なものでもあるのです。ヒトの皮膚には「プロビタミンD」が存在します。これは、紫外線の照射を受けることによって「プレビタミンD」に変わり、さらに体温によりそれがビタミンDに変わります。ビタミンDは、カルシウムの代謝に深く関連する栄養素です。欠乏すると、骨の弱化の原因となります。
ここで、話を肌の色に戻します。先に、「私たちの肌にはメラニンが比較的多く、ドイツ人の肌には少ない」と書きました。この違い、なぜあるのかかわかりますか?
日光の弱い地域に起源をもつ白人の体は、肌のメラニンを少なくすることで、よりたくさんの紫外線を吸収し、骨の強化に必要なビタミンDをより多く作るようになっています。日本はドイツに比べ日照が多いことから、日本人の肌には白人の肌よりメラニンが多く、白人と比較して、紫外線をあまり吸収しないようにできているのです。
実は男女の肌の色の差にも意味があります。女性の肌の色は男性の肌の色より薄いですね。女性の肌のメラニンが男性のそれよりも少ないのは、妊娠時、胎児の骨の合成に必要なビタミンDを作るためです。*1
またドイツでは、子どもが生まれてから2歳になるまで、ビタミンDの錠剤を与えることが勧められています。日本には無いこの習慣、ドイツで子育てを経験した方は、一度は「ナゼ?」と思ったことがあるのではないでしょうか。これも、日光の弱いドイツでまだ栄養状態が悪かった時代に、ビタミンD不足による骨格異常、「くる病」を予防する必要から始まったものです。
この「くる病」という名前ですが、最近日本のメディアでも時々見かけるようになりました。「くる病」に罹患する乳幼児が、ここ十数年で増えているそうなのです。背景には、紫外線の害を気にするがあまり、衣服や日焼け止めクリームで完全防備する、またそもそも外に出ない、など、この時代ならではの考え方があるように思います。やりすぎは良くないけれど、適度に日光に当たることは、実は大切なのです。
さて、ドイツの日照が比較的少ないことは、ここまででわかりました。そうすると、日本とドイツでおひさまの光にどの程度違いがあるのか、気になりませんか?(私だけ?)
まずは日独の「日照時間」をざっくり比べてみました。ドイツ全国平均のデータは見つかったのですが、日本全国の数値ですぐ使えるものがありませんでした。そのかわり地域別のデータはありましたので、わかりやすいところで東京の日照時間を参照して、簡単な比較グラフを作ってみました。国のデータと都のデータは実際には直接比べられないのですが、そこはちょっと目をつぶって下さい。
2016年5月から2017年4月までの、日照時間の月別データの比較です。*2
グラフによると、夏の間、6月から9月はドイツの日照時間(青)が長いですね。これは、ドイツはじめ欧州の北方は、夏、日が特に長いことから出る差でしょう。私が住んでいるドイツ南西部でも、夏は夜10時くらいまで明るいのです。
そして冬、10月から2月までは、東京の日照時間(オレンジ)の方が圧倒的に長いです。冬のドイツの昼間はとても短いので、これは納得の違いですね。
ちなみに、年間日照時間数(2016年5月~2017年4月)は、ドイツが1,670時間、東京が1,979時間。2015年のデータ(1月~12月)では、日本全国の平均は1,919時間です。*3
そして、やっぱり紫外線が気になる、ということで、UVインデックスの比較です。UVインデックスとは、世界保健機関(WHO)が紫外線対策の目安として参照を奨めているものです。日本の環境省もこれに従い、例えば3以上は日陰を利用、8以上はできるだけ外出しない、など、紫外線による健康被害の予防対策を提案しています。紫外線は緯度が高くなるほど強くなると言われています。日本の2016年のデータを見ると、東京では平均的に7を超える月はないものの、中国地方以南に7以上、九州以南に8以上の数値が見られます。*4
では、ドイツはどうでしょうか?残念ながら、UVインデックスに関する過去の(無料)データが見つからなかったので、現在の数値を参考にします。
これは、2017年5月17日水曜日のUVインデックスです。*5 私の住んでいる辺りは7です!
そして翌日5月18日の予報。*6
この季節、もうこんなに紫外線が強いのですね。これから夏にかけて、それがさらに強くなります。日照時間が長いと、それに伴って外にいる時間も長くなります。やはりそれなりの対策を施した方がいいですね。
ビタミンDを生成するためにどの程度紫外線に当たればいいのか、その時間はわかっていませんが、「日常生活の中で、普通の季節に合った服装をして顔や手に当たってしまう程度」*7と考えればいいようです。
話は戻りますが、ドイツ人がおひさまの光を浴びたがるのは、やはり本能的に体がビタミンDを欲していること、今ビタミンDの補充をしなければならないことを知っているからでは。そう考えると、まだ寒い2月や3月に半そでで日光浴をするのも、納得のいく行動ではありませんか。
<以下参考にしました>
*1 香川靖雄(2006)『香川靖雄教授のやさしい栄養学』女子栄養大学出版部
*2 Statista GmbH
https://de.statista.com/
気象庁ホームページ
http://www.jma.go.jp/
*3 総務省統計局 第六十六回 日本統計年鑑 平成29年
http://www.stat.go.jp/
*4 気象庁ホームページ
http://www.jma.go.jp/
*5 Deutscher Wetterdienst
http://www.dwd.de/
*6 Bundesamt für Strahlenschutz
http://www.bfs.de/
*7 Yomiuri Online
http://www.yomiuri.co.jp/
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