何かの拍子にふと、以前義理の母と議論したことを思い出しました。
家族で義理の両親のところに遊びに行った時のこと。サラダだったか、チコリの入ったものが食事に出ました。写真にある、あの苦いチコリです。
で、息子がまさにそれを食べようとした時に私が「チコリって苦いよねー」というようなことを言ってしまったら、息子は食べるのを止めてしまいました。
義理の母曰く、「あなた(私のこと)が苦いって言わなかったら、○○(息子の名前)はチコリ食べたのに!」。
義母は本当にいい人で、これは私に対する非難ではないのですが、何しろそこはドイツ人、自分の意見をズバッと言います。なので、私も遠慮なく言います。「いや、別にチコリ食べる必要ないよー」。
義理の母の思いは明快です。野菜は体にいい。孫にもいろいろな野菜を食べられるようになって欲しい。それを親が邪魔してはいけない。
確かにその通り。子どもには、好き嫌い無く食べてもらった方がもちろんいい。それに子どもの場合、他人のちょっとした一言で、今までに食べられたものを食べなくなったり、逆に食べなかったものを突然食べるようになったりします。大人として、そこは気を付けなければなりません。
でも、チコリなどの苦い野菜を子どもが食べることを、私は特に期待していません。小さな子どもの舌はまだ、チコリが持つような「苦味」を簡単に受け入れるようにはできていないからです。
子どもは、お母さんのお腹の中にいる時から、味を区別することができます。舌の上には味を認識して神経に伝える「味蕾(みらい、Geschmacksknospen)」がありますが、これは妊娠8週目から発達し始めます。こうして赤ちゃんは、羊水の味を区別することができるようになります。味蕾はその後生涯にかけて、発達していきます。
子どもは生きていく中でいろいろな味と出会うわけですが、初めて経験する味を警戒します。知らないものに対して不安を持つことは自然なことで、ネオフォビア(Neophobie)と呼ばれています。そして人の舌は「苦味」には特に敏感です。苦いということは、それはひょっとしたら毒かもしれないし、腐っているかもしれない。まずは一口食べ、そして何度も食べてみて、これは毒ではないと確信して初めて、それを問題無く食べらるようになったり、好きになったりします。
この「苦味」の他、「甘味」、「酸味」、「辛味」、「うま味」を感じる味蕾は、実は子どもの方が大人より約2倍多いのです。ということは、子どもは大人より味に敏感だということ。そして味蕾は、歳をとる毎に減っていきます。人は年齢が上がるに従い、いろいろな味を経験し、慣れていきます。苦い野菜が毒ではないということも、経験から学びます。さらに味蕾が減ることで、強い味を好むようになります。こうして、子どもの頃には食べられなかった苦い野菜も食べられるようになるのです。
こう見ると、子どもが苦いものを食べられないのは当然。私たちが子どもの時だって、ピーマンや玉ねぎ苦手だったでしょう。なのに今はピーマンどころかししとうだって食べられる。きっと私たちの子どもたちも、成長するに従い、苦い野菜も食べてくれるようになると思います。
ちなみにネオフォビアですが、これがもっとも強く出るのは生後18か月から24か月の子どもです。これは、歩けるようになって何にでも手が届くようになった子どもが、体に毒となるものを取り込まないようにする防御機能を備えているということです。そして5歳までは、ある食べ物を受け入れられるようになるまで5回から10回試して、そしてやっと新しいものに対する不安を克服することができます。面白いのは、ネオフォビアは女の子より男の子に現れることが多く、また遺伝も関係あるそうです。
誤解のないように言っておきます。もし子どもが苦い野菜も嫌わずに食べられるのであれば、それがベストです。もし食べられなかったとしても、「うちの子食べないのよ~」と悲観する必要は全くない、というのが私の考えです。それより、パプリカやニンジン、ブロッコリなど、子どもも食べやすく、栄養価の高い野菜はたくさんあります。ドイツのパプリカやニンジンは、日本のものより甘くて、食べやすいような気がします。このような野菜を食べることができれば、それでOK。その他子どもに食べてほしい野菜があれば、嫌われてもあきらめず食卓に出してください。食べることを強制してはいけません。シラーっとさりげなく出すのです。そうすると、いつか、いつの日かきっと食べられるようになるはずです。
今回は日本とかドイツとか、全然関係の無い内容でしたね。お許しを~。
<以下参考にしました>
aid Infodienst (2013) Vorlieben und Abneigungen – Geschmack ist nicht alles. In: Der Kopf isst mit Zusammenspiel mit Essen und Psyche.
<写真>
https://www.photo-ac.com/
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